◇きっかけ◇
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【旧客殿全景】
外見は傷みなく見られるが、実際にはかなり深刻な状況だった… |
平成5年に先代住職(祖父)がこの世を去りました。高野山から帰ってきたばかりの現住職は平成7年、27歳の時に新住職となりました。右も左もわからぬ正に「若僧」でした。そんな折、阪神大震災…被害こそなかったものの寺建物に対する不安の声が挙がり始めました。
「高蔵寺の古い建物は大丈夫か?」
「この先、どれくらいの耐久年数があるのか?」
「寺会計にほとんど残金がない状態で何か起きたらどうするのか?」
「将来を見据えた伽藍(境内建物)の工事計画を立てるべきではないか?」 平成8年、専門家に調査を依頼し、計画案がまとまりました。その時、一番の危険度と判定された建物が客殿でした。高蔵寺の客殿は「人が集う」「供養する」場所で、本堂より大きな建造物です。100年以上の建物でこれまでにも何度も手が入れられてきました。シロアリに要所を食われ、床部の所々はフワフワした状態、柱は歪み建具との歪みは最大で6センチ以上、戸の開け閉めも厳しい状態、基礎が無く地盤は砂地、2層の屋根が土と河原の重さでかなりダってきていました。
「5年から10年の間に処置が必要」との結果を突きつけられました。まるで大病を急に告知されたような気持ちでどうすべきか悩みました。そして総代達役員と下した決断…それはなんとかそれらを食い止める改築工事でした。とはいっても予算はなく、稀にみる不景気の最中、「改築目的」の浄財を募りました。「しなければならない」そうご理解下さった檀家から5000万円の目標金額が集まりました。

◇決断から一転、覚悟の白紙…反発◇
そしていよいよ着工…最終打ち合わせの段階でした。これで一安心…そう思う住職の心の片隅に本当にこれでいいのか?という部分が顔を出しました。その心を支持するように周囲からも様々な声が挙がり始めました。
「この改築でどれくらい持つのか?」
「新築という選択肢はないのか?」
「その場しのぎの判断ではないか?」 工事はそこまで迫っていました。何の説得力もない若い住職に出来ること。「胸張れる計画を信念を保ち決行すること、今ならまだ間に合う!」そのことを胸に各方面に走り、意見を求め研究しました。もちろん単独行動でした。
・5000万円の改築…基礎部の補修がなく、今後に様々な不安を残す。
・8000万円の新築…宮大工による盤石な新築。しかし旧建物の解体やそのた整備費をする為、1億円を越える予算が必要。
改築が5000万円で新築が2億円以上ならあきらめもつきますが、この差額での決断…新築なら1000年以上建ち続ける技術が投入されます。でもその部分の理解とこれまでの建物に対する愛着、そして何より一度はご無理を言った「寄付」を追加をお願いしなければならない。それも前回以上額をお願いするのです。それはそれは蜂の巣を突いたような状況が容易に想像されます。
決断は数日に迫っていました。どうすべきか?そんな時、後押しして下さるご意見も寄せられました。反対されても「命までとられまい!!」こんな開き直りで「改築計画の白紙」を決断しました。想像通り、いや想像以上の反発もありました。その反面「子や孫や、その後に続く子孫に胸の張れる建物のを!」と立ち上がって下さる人々も出てきました。こうなったら自分の名誉とかの次元じゃなく、ただただ「ご本尊」「ご先祖」「寺」の重要性を説いていこう!政治も経済も坊さんには関係ない…「仏さまだけを見つめて現実を説いていこう」と決心しました。

◇宮大工の手で◇
宮大工による新築の素晴しさ…これは誰もが認める技術であり誇りであると確信し、日夜説明をしました。しかし現実には厳しい意見が続出しました。
「宮大工は高いから普通の大工仕事でいいのではないか?」
「田舎寺にそこまでの建物が必要か?」
「鉄筋で今の形にあった物を検討すべき」 すべてにそれなりの筋があり、現代に於ける「寺院の必要性」には大きな大きな個人差があります。この個人差=信仰の浅深です。住職を任された時、この部分をより深きものにしようと「本山布教師」を目指しました。しかし、全ての意識を変えるのは並大抵のことではなく、ましてや寄付という多額のお金が掛かる問題の壁は想像を超える高く厚きものでした。
平成12年、そんな向かい風の日々に「追い風」が吹き始めました。それはこれまでに住職が行なってきた様々な行事に参加して下さった方々の声でした。特に隔週で続けてきた『こうぞうじ寺子屋・サタデースクール』の保護者の方々から
「本物の建物で」
「この子供達のまた子供も使える空間を」
とのお声を頂戴しました。また、時を同じくしてNHKの人気番組『プロジェクトX』に奈良・薬師寺金堂再建をテーマにした内容が放送されました。住職が「高蔵寺を頼むのはこの人しかいない!」と心を決めていた棟梁・小川三夫さんが出演されていました。学生時代、この方の講演を拝聴し感動したものです。
この番組のおかげで「この人に頼みたい!」この気持ちが周囲からも沸き上がってきました。小細工不要、ただ正直に進むべし!いつしか逆風すら追い風に芯をずらさぬ信念が住職だけでなく、檀家の皆さんにも芽生え始めました。

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